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高木と一緒に歳を重ねてきて・・・
自分で自分が変わったのがよく分かる。 吉田ゐさお

ゐさおちゃんが私を必要としてくれる−− それが、
私の原動力だと思う。         高木郁乃


前号での彼らの本誌インタビューでも触れたが、高木郁乃の声帯悪化、
それに伴う体調不良で予定されていたツアーはキャンセルされ、その後彼らは
シングルやアルバム製作のスケジュールはあったものの、
高木郁乃の自宅療養、吉田ゐさおの楽曲製作という、
それぞれの、だけどちょっと沈痛な時間を過ごしていた。
そんな(聴き手にとっての)空白時間を埋めるべく、彼らは再び音楽を紡ぎだした。
高木郁乃にとっては、その時点では、「やれる!」との確信があってのスタートではなかったのだが、
今回のインタビューでもよく分かるし、むしろ、Jungle Smileにピリオドを打つ可能性もあったこと、
また、それを受けた吉田ゐさおは、音楽そのものを精算してしまう覚悟も若干だがあったことが語られる。
しかし、最新シングル『翔べ!イカロス』は、そんな高木郁乃の、「墜ちてもかまわない。私は翔ぶ!」という、
ある種の決意を込めた作品であった。それを受け取った吉田ゐさおは、
アレンジャーとしての才能をフル稼働し高木郁乃を羽ばたかせた。
そして、ニュー・アルバム『あすなろ』も苦心の甲斐あって見事に完成した。
『翔べ!イカロス』に辿り着くまでの、その精神葛藤を、
アルバム全体(=音楽)を通して見事に描いていると言っていい。
“あすなろ” とは、「
あすは、こうなろう」という彼らの前のめりな、今の姿、そのままが表現されている。

聞き手=棚橋和博


−−前回の本誌インタビューは郁乃ちゃんの声帯悪化に伴う体調不良ってことで、休養に入る寸前だったと思うけれども、まずはこうしてすばらしいシングル『翔べ! イカロス』 ができたわけで・・・ 「ジャングルスマイル(以下JS)は続けたい・・・今のところは体はついて行かないけど、死ぬ覚悟で頑張るつもり・・・」 と以前言ってたから、かなりの覚悟は出来ていたんですよね?

高木・そう、(あの時は)これから休みに入るということもあったし、その間に気持ちをどうにか持って行こうって、そういう風な答えになったと思うんですが・・・あれから、気持ちは巡り巡って・・・・・・できあがったCASTを何度も読んで、「私、こんな事言ったんだな」って(笑)−−まあ、復活してからも気持ちの中ではいろいろあって・・・。

−−あの時、気持ちの整理がついてたわけじゃなかったんだ?

高木・うん、(自分に)言い聞かせてたっていう。実際には精神的にも体力的にも簡単には行かなかったですね・・・でも、音楽(=JS)をやめたくなかったっていうのはいつもありました。

−−僕もファンも、郁乃ちゃんの声や体の状態がどの程度かはわからないでしょ? でも、ツアー自体を全部キャンセルするくらいだから、決して順調ではないのがわかる。で、前回のああいうインタビューじゃない?
「音楽を取るかふつうの生活を取るか・・・」って発言もあって。で、エンターテイメントの仕事って以外と苛酷だし、それを考えると、簡単に「復活! 頑張ります!」とは言えない。まあ、かなり悩み苦しんだのはわかるんですよ。

高木・うん・・・毎日いろんな事を考えました。休みに入った一ヶ月間・・・(気持ちの)整理がつかなくて田舎に帰っていて。で、向こうに帰れば家族や知り合いとか、いろんな人がいて、散歩に出れば、ヤンキーなんかが、「ジャンスマ!」ってからかってくるし(笑)・・・で、ひとりで東京にいたいなと思って。で、ほとんどアパートから出ない・・・・・・誰にも会いたくなくて。で、自分なりの結論を休み明けまでに出さなきゃ行けないと思って・・・でも、そんな簡単に決められるものじゃなくて。はっきり言うと、どっちを取るかだった。 「(JSを)やめて出直そうかな?」とか(笑)・・・何となくよぎったりしたけど、それは本気じゃないんですよ。心の底では思っていないから・・・それを選ぶのは大変なことだし、だったら続けていた方がいいっていう。まあ、絶対捨てられない物を捨てなきゃいけないんじゃないかって選択を迫られているような感じがして・・・自分の中でそんなことを何度も繰り返し考えて・・・・・・だけど、(スタッフなど)皆んなに勇気づけてもらいましたね(笑)

−−ゐさおちゃんは、郁乃ちゃんが断片的であるにせよ、「やめようか・・・」って、そこまでシリアスに考えていたなんていうのは?

吉田・うん、予想はしてなかったですね。

−−「休めば?」って感じだったものね。

吉田・そう。だから、そういう風なことを言い出したときはびっくりしましたよ。

−−確かにね、昨年夏のツアーを全部とばしたのは、JSにとってある種の大きなブレイク・ポイントを逃したのかもしれません。実際、全公演のチケットは売り切れで・・・そういうことが繰り返されるとJSにとって痛手だし・・・郁乃ちゃんが、「(迷惑をかけるなら)やめたほうがいい・・・」と考える気持ちは僕にもわかる。で、パートナーのゐさおちゃんは郁乃ちゃんのそんな状態をどう思っていたわけ?

吉田・・・・何かね、(高木と)話す度に・・・そういう(ような)ことを言われたり、ちょっと元気になったりで・・・そんな感じで何回か会話して行く内に自分もかなり影響されていて。何とも思ってない頃は、「俺はこの(JSという)プロジェクトがなくなっても食っていく自信はあるし・・・」って凄い自信があった・・・つもりなんですよ(笑)。で、今回のことも、半年やそこら休んだところでJSにも俺にもそんなに大した影響は出ないし、逆に良くなるだろうくらいに思ってたんだけど・・・実際に彼女の具合や精神状態を知るにつけ、「あ、このバンドはなくなっちゃうかも」って気がしたんですが、その時にかなり・・・がっくりしちゃったんですよ。何かね、そんなにがっくりすると自分では思ってなかったんでびっくりして。「これ(JS)がなくなっても(音楽を)やって行けるかもしれないけど・・・もし、なくなったら自分も精算(=音楽をやめる)しちゃおうかなあ?」って究極のところではそう思いました。高木に影響されたのかどうか・・・正直言って非常にがっくりきちゃったんですよ。

−−それはいつ頃のこと?

吉田・8月いっぱいまで休みだったから・・・確か9月の頭かなあ?

−−で、郁乃ちゃんはね、ゐさおちゃんは他のパートナーを探してでも音楽を続ける人だと思っていたでしょう?

高木・(笑)うーん・・・ゐさおちゃんにはいろんな才能があると思う。確かにJSがホームグラウンドだと思うんですけど、もっと幅広く・・・映画のサントラなのか、CM音楽なのか、誰かに楽曲を提供するのかわからないけど・・・そのことを具体的に(「そういうのをやりなよ」と)言ってあげなきゃいけない時期なのかなと思ったり・・・・・・・・・あのね、私がソロだったなら一旦は(音楽活動を)やめていたかもしれないですね。出直しっていうか・・・いつになるのかわからないけど、またデモテープを作ってレコード会社に送って(笑)・・・。で、どうして行くのが一番いいのかを考えて・・・だけど、一緒にやっていくのはこの人(吉田)しかいないと思った・・・私がひとりだったらメゲていたかもしれない。

吉田・僕はね、「自分は自信があって何でも出来る」と思っていたのは全部計画性があってのことだったんです−−ここまで行ってひと段落し、次に違うことにも手をつけてみようっていうね。だけど、今回のようなアクシデントがあった時に・・・それに順応出来ない自分がいたんですよ。

−−狼狽してしまったと?

吉田・そうそう。これはもう、俺の最後のプロジェクトだと思って・・・「ここでなくなるのなら(本望)・・・俺も今までのことをきっぱり忘れて自転車屋でも始めようか?」って、そんな感じでしたね。

−−結成してから・・・いや、デビューしてからもゐさおちゃんは、そんなにJSには本気でのめり込んではいなかったと僕は思う。それが、シングル『小さな革命』やアルバム『林檎のためいき』あたりから急激に郁乃ちゃんが歌詞的にも本性を現してきた。その辺から、パートナーとして、(お互いしのぎを削る)戦う相手として郁乃ちゃんを意識し始め、JSにも本腰が入ったんじゃないですか?

吉田・うん・・・そうなんでしょうね。まあ、最初(にJSを始めた理由)は金であって(笑)。だけど、次に金なんてどうでもよくなったわけですよ。で、「金なんて・・・」と思っているもの(JS=音楽)がなくなった時、簡単に次の商業音楽をやって行けるのかどうか? って・・・そんな風に思ったし、やって行くべきかどうなのか・・・と考えた。で、「だったらやめちゃった方がいい」って思考に入ったんです。

−−で、ゐさおちゃんがそんな考えに至っているのを郁乃ちゃんは知ってたの?

吉田・あ、言ってないよ。

高木・うん・・・あのね、何があっても私を責めないんですよ。会うときはいつもと変わらなくて・・・だから顔を見るのも辛くなってきて・・・・・・。で、休みが明けて・・・9月から一応次のシングルの会議があったんですね。ところが私は詞を書く以前の問題で・・・「このまま進んで行っていいんだろうか?」って迷いが消えなくて。そんな状態の中で皆んなと話すようになって・・・・・・で、「(JSを)やめようと考えてて・・・」みたいなことをマネージャーさんに言ったんですね。で、それを聞いたゐさおちゃんは、ガクンとなったというのを聞いて、「うわぁ」って。・・・私のせいで苦しんでいただろうっていうのは常に思っていたことだけど、落胆したというのを目の当たりにして、逆にそれが・・・私自身を高いテンションに持って行く良い起爆剤になったんです。何かこう・・・ずっと海の中で溺れていて苦しかったのが、水面に顔が出たって感じになれた(笑)。

−−結果的に(ゐさおちゃんが)落胆したリアクションを見せたけど、郁乃ちゃんは凄く嬉しかったんだね。

高木・(笑)うっふっふふふ・・・そう。

吉田・落胆したところは見せてないよね?

高木・私・・・皆んなから聞いた(笑)。スタッフも、「(ゐさおちゃんは)必要としてくれてるんだよ」と言ってくれて。で、整理がつかなくなった気持ちがどんどん高まってきて、「またここ(JS)で頑張ってやってみるよ。宜しく」と言ったときに、「ああ、良かった(笑)」って凄くホッとして(ゐさおちゃんが)涙ぐんだんですよ。それを見た時・・・凄く嬉しかった(笑)。

−−(笑)ゐさおちゃんは、「音楽を捨てなくていいんだ」ってことになるよね?

吉田・うん、そうそう(笑)

高木・何かね、「私のせいで・・・」ってあまり言っちゃいけないんだけど・・・(周りの皆んなやゐさおちゃんの)気持ちを振り回しているんですよ。だけど・・・・・・・・・ゐさおちゃんがそこまで私を必要としてくれているっていうのが、一番の・・・原動力なんだとその時に思いました。

−−だけども、郁乃ちゃんにいきなりマラソンを走らせようっていうのは体力的に無理なわけで。喉や体の調子に合わせた活動をすることを余儀なくされるわけですよね?

吉田・そうですね、(彼女に)ペースを合わせるってことですよね? それはもう負担のない環境を作って続けて行きたいっていう。

−−本人を目の前にして言うのは何なんですが、そこまで彼女を評価する理由は何なの?

吉田・うーん・・・何でしょう(笑)? このプロジェクトが一体化したからじゃないかな。もともと音楽は仕事としてやろうと思っていたことだったし・・・だから、ちょっと醒めていたのが、本気になったっていうか・・・・・・今までなかったんだろうな、きっと。そんなに年月は経っていなくて短い時間だけど、一緒に歳を取ってきて・・・自分が変わったというのが自分でも手に取るようにわかったってことでしょうね。だから、これ(JS)がなくなったら心中するしかないって感じですかね。だけどね、「頑張るから」「そう、良かった」っていうのは(まだ体調が万全じゃない)高木にとっては、酷な話でもあるんですよ。

−−そうそう、そこを言いたいんです。

高木・うん、私も好きで喉や体の調子を壊したわけじゃないんだけど、実際には、「今日までにあれをやんなきゃいけない。あ、これも」っていうのは沢山あって。そんな中で決心したわけだから、また倒れたらいけないんですよ。でね、自分の体調も勿論だけど、それよりも、「あ、大丈夫?」って言われてしまう自分のこの立場が一番辛い(笑)。

−−周りが、郁乃ちゃんのことで右往左往するってことですね?

高木・そう、皆んな(私に)言いたいことは山ほどあると思うんです。だけど、皆んなは言わないし待ってる。だから私はそれに応えたい・・・だけど、(前みたいに)スピードは上げられない・・・・・・確実に一個一個こなすしかない。そんな風に周りに迷惑がかかるから、やめようかな・・・」って思ったんです。

−−うん。だけどね、『翔べ! イカロス』を聴くとね、「実は郁乃ちゃんが精神的に大変なところに直面していた」っていうのがね、これはもうわかっちゃうよね(笑)。

高木・だから私はちょろいのを出しておきたかったんですけど(笑)、これを出さない限りは前に進めないと思ったんですよ。


−−はい(笑)。で、『翔べ! イカロス』が出来た過程から聞きましょうか?

吉田・この曲はだいぶ前に出来ていて、その後、かなり遠回りして・・・時間がかかった曲なんですよ。仮詞が上がってから元のものを崩してキーもテンポもアレンジも変えたんです。

−−あのね、ちょっと前のゐさおちゃんのアレンジ・モードは、凝った革新的なことをやりたくてしょうがない感じだったと思うんだけど、この曲は、いかに歌詞を生かすかと言うアレンジに終始していると思う。トライアングルとスネア・フレームを叩くリズム・キープから、そして最期の方にようやく出て来るアコースティック・ギターのカッティング。もうね、曲の最後には、いかに高木郁乃を翔ばそうかという目的しかなかったアレンジだったと思う。つまりね、凝ったことをやろうという意識はなかったんじゃないですかね?

吉田・うん、今はそういうモードに入っていて。以前は、新しいオモチャ(機材)を得たので、それを使って最大の遊びをしたかったわけですよ。それももうそろそろ、自分の道具としてちゃんと頭にある物を出して行くというシンプルな考え方になっていて・・・小手先のギミックに走らなくなったんです。

−−で、歌詞を見てさらに、それに合ったアレンジに突き進んだと?

吉田・そう、いろいろと変わって行ってね・・・。

高木・私の方からも、キーやテンポをあげて欲しいと依頼して。

−−さっきも言ったように、『翔べ! イカロス』の歌詞は時期的に「これを歌わずしてどうする!」という内容だと思う。「翼が折れても 風が止んでも〜すべてを失っても 僕らは行くしかない」っていうのはね、JSや歌とか、生きることもすべてひっくるめて、「何があろうと、もう行くしかない」という覚悟の歌なわけですよね?

高木・・・・本当は、そうじゃないほうが良かったんですよ(笑)。何かね、「また頑張ります」とか言った後も煮え切れない部分がどうしてもあって−−「私、結婚できないかもな。あ、子供は無理か?」とか・・・幸せそうな家族を見て複雑な気持ちになったり。また、「もう24歳だし・・・もっとしっかりしなきゃ。周りの友達はちゃんと結婚してるよな・・・」とか、何かね、自分がひとりになってしまった気がして。で、ある日ね、友達と電話で話していたときに、「郁乃ちゃんはイカロスだよ」って言われて。「イカロスって死んじゃうヤツじゃん? やだよ、まだ死なないよ(笑)」って話していて。で、次の日に・・・「あ、そうか。私もイカロスのごとく行かなきゃいけないな」って決意したっていう。で、「僕は行くしかない」って書きながらも、「これ、唄えるかな?」っていうのがずっとあって・・・で、この曲が出来上がって・・・・・・やっとですね(笑)。

−−「これだ!」って確信を持って書いたのではなく、書いて、唄ってみて、やっとそこで気持ちを重ねられたという?

高木・・・・そう、やっと・・・本当に覚悟を自覚したっていうのかな(笑)。(最初は)怖くて皆んなには見せられなかった−−「僕は行くしかない」っていうのを見せたら、本当に行くしかないでしょう? ホント、後には戻れない。でももう言えたし・・・大丈夫だと思います(笑)。

−−この曲でもっともパーソナルな部分=今回の一連の喉や体調不良が匂っているのは、「僕が声まで失って 落ちぶれた時に 同じように君を抱けるかな・・・」っていう部分だと思うんです。自分にとって歌や音楽がどういうものであるのか、それを失うということはどういうことなのかが見事に描かれています。

高木・うん、凄く考えて・・・・・・歌を失ったらね、浮浪者になるか死ぬか(笑)・・・

−−(笑)そこまではないでしょう?

高木・いや、本当にそう思った。結局は歌なんですよ。これしかないし、これがあるっていう。やっぱり、私みたいな人間は慰め合う愛だけじゃ満足しないって思うんです。ここで諦めて逃げたら・・・また別のことでも逃げてしまいそうで・・・そんな風に逃げ続けて生きて行く方が辛いから。

−−あなたが大成長を遂げた『林檎のためいき』の後に何を歌うのか、それが個人的には一番興味があったんですね。で、こんなことを言ったら叱られるかもしれないけど、今回の体調悪化というアクシデントがあったからこそ、「本当に大切な物は何なのか?」がうまいタイミングで書けた気がします。

高木・(笑)うん、確かにそうかも。

−−で、ゐさおちゃんは、この歌詞を見てどう思ったんですか?

吉田・まあ、イカロスっていうアイデアは聞いていたんですけど・・・で、前向きな物を書こうとしていたのは分かったけど、実際に調子が悪くなると、逆のことを言い出したりして・・・・・・「おいおい、大丈夫か?」みたいな・・・・・・心配は特にしてなかったけどね。

−−でも、「行くしかない」って部分は、あなたにとっては安心材料なわけでしょ?

吉田・そうですね。一番不安定な体調と気持ちの中で、そういう前向きな歌詞が出てきたというのは凄く喜ばしいことだと思ったかな。

−−郁乃ちゃんがね、ここまで自分の決意を歌詞にするのってそうは無いと思うんですね。何か、その決意を受け取り、その歌詞に沿ったアレンジを僕はしてると思う。曲の最後で本当に郁乃ちゃんが翔んでいる気がしたもの。ホント、ゐさおちゃんの優しさを初めて僕は感じたかな(笑)。

吉田・うん、普段は聞かないけど、珍しく意見を聞いたからね(笑)。

高木・今回はね、テレビやライヴで唄っている自分をイメージしたから。だから、元のままのキーやテンポだと暗くなっちゃうと思って・・・だから、「上げて!」って言って。

−−で、オケが出来て唄った感想は?

高木・うん、感情的に唄うって感じじゃなくて、凄く楽しく晴れ晴れしく唄えました(笑)。

−−で、この『翔べ! イカロス』が完成した時って何を思いましたか?

吉田・何かね、「また始まったな・・・良かったな」っていう感じですね。失いそうになって、初めて得る・・・こういう仕事(音楽)が出来て良かったなってって。それまではずっと追われていたし、(音楽を作ることが)当たり前になっていて・・・・・・ここでひと区切りして、また一個一個作品を作って行く喜びを感じましたね。

高木・ゐさおちゃんの口からそんなことを聞く時期になったんだなって(笑)・・・今、そんな風に感じた。最初に会った頃なんて、今とは全然違うんだもん。

吉田・いや、歳をとったんだよ(笑)。

高木・(笑)でも、誰が聴いてもゐさおちゃんのアレンジじゃない?

−−(笑)そうそう。でも、革新的でいたいとか、時代を捕らえたいっていうような気持ちは落ち着いたでしょう?

吉田・だって、俺が時代だもん(笑)。

−−(笑)おいおい、テープ止めようか?

高木・(笑)あっははは。何かね、最近のモードとしては、流行っているものとかカッコいいものとかは関係なくなってるよね。

吉田・そう、先取りというのではないよ。

−−うん、あなたの世界は確立されましたよ。で、『翔べ! イカロス』は、アレンジのイメージは本当はどんなものだったの?

吉田・言葉で言うとね、一歩一歩歩みを進める行進曲のような感じのアレンジですね。何かね、歌詞を見る前からそんな感じだったんだけど、見て確信したっていう。だけどね、人(=高木)から言われてかなりアレンジを変えたのは初めてじゃないですかね?

−−何でだと思う?

吉田・・・・だって、(高木)が言ってくるからさ。自分がゼロから生み出した物を変えるというのはね、かなり納得感みたいなものがないと、なかなか難しいんですよ。だけど、今回それが出来たのは・・・・・・何かがつかめたからだと思うんですよね。

−−ユニットとかプロジェクトとJSを言うことが多かったけど、間違いなくバンドへと意識が変わっているんだよね。

高木・ああ、スタッフもそう言ってた。何かね、『林檎のためいき』があるから、これが意味のあるものになるっていうか、すべて順を追っている感じがしますね。

−−で、JSにとって、『翔べ! イカロス』はどういう曲になると思っていますか?

高木・うん、代表曲になるかも(笑)。ファンは・・・ツアーを中止して、しかもこういう歌詞だからきっと意味を持って・・・「イクノフ頑張れよ」って聴く人もいるかもしれない。でも、関係ない人には素直に入って行く曲だと思う。

−−うん、今回の顛末をストレートに出した曲じゃないものね?

高木・うん、最後のね、「僕らは行くしかない」ってうところはね、最初、「僕は行くしかない」だったんですよ。でも、スタッフの皆んなから、「“僕らは・・・”に変えた方がいい」って意見があって変えたんです。そういう意味でも自分よがりのものにはしなかったし。だから、サビの、「イカロスは羽ばたいたよ〜」の部分なんかは、スポーツ選手とかにも当てはまるフレーズだと思う。

吉田・あのね、ひとつ思っていることがあって・・・高木がね、「どんな音楽に影響を受けましたか?」なんて聞かれる度に、「エディ・リーダーとかゴスペルが好きです」とか、無理して言ってた記憶があるんですけども(笑)、いつだったか、「私が影響を受けたのはポケット詩集です」と言ったことがあるんですよ。その時に、ずっと唄い継がれて行くもの、そんな詩集に影響されたっていうのは、とてもいいことだと思ったんです。この『翔べ! イカロス』はね、そんなポケット詩集に追加できそうな曲が出来たんじゃないかって凄く思ったんですよ。

−−イカロスがテーマとなった曲は、『みんなのうた』でも唄い継がれていますからね?

高木・『あの素晴らしい愛をもう一度』とかも私にとってはそういう存在の曲です。だから、私が死んでも合唱曲として残っていたらいいなって思う。

−−だけど、イカロスの翼って落ちるのがわかっていて飛ぶんだから、無謀といえば無謀だけど、ある種の勇気ある覚悟だよね?

高木・棚橋さんだって覚悟をしていると直感的にこの人は身を削ってる人かそうでないかすぐにわかりますよ。で、どういう人を信用するかと言ったら、早く落ちるとわかっていても身を削ってる人だと私は思うんですよ。


−−(笑)俺は違うと思うけど。で、カップリングの『初恋』に触れますが、これは『林檎のためいき』に収められている『林檎』のテイストに近い楽曲なんですが、「初めてのくちづけは〜冬にだけ山に来る 七つも年上の人」なんて言う具体的っぽいフレーズが出て来ると、何か、ちょっと焦る(笑)・・・。

高木・(笑)『林檎』なんて、相手が分からないからいいんだけど・・・・・・『初恋』に出て来る人なんか(笑)・・・・・・もう、そんなこと言ってたら歌詞が出来ないよっ(笑)。

−−(笑)いやぁ、実話でしたか?

高木・あのね、映画でもドラマでもそうだと思うんだけど・・・『シド・アンド・ナンシー』なんかでも、あれはノンフィクションでしょう? そういうことだと思うんですよ。私の中の記憶は真実だけれど、その時、本当にそうだったかどうかは分からないってことだと思う。

−−『林檎のためいき』から、いわゆる女性としての歌詞を描き始めたわけですけど、この『初恋』で、10代の頃の微妙な性の目覚めを書こうと思ったのは何故なんですか?

高木・(笑)歳をとったから。実はね、この歌詞に出て来る人が結婚してたんです。ある日ね、その人に電話したら、結婚もしてて子供もいて。で、「あ、私の青春は終わったな」と思って(笑)。で、その人に対しての気持ちを書こうって・・・だから、この曲はその人に一番聴いてもらいたい。だけど、そのときの気持ちをその人に言いたかったわけではなくて、これを作品として残したかったという。・・・私は人生の中に於いて官能的で芸術的なものって“初めてのキス”だと思っていて。これは・・・生まれて初めてのキスというより、その相手との初めてのキスで・・・それは凄く素晴らしいものだったなって・・・作品として残したいってことだったんですよ。

−−その時、そんなことは思っていなかったけど、時間が経って振り返ってみると、「あの時は素晴らしかった」と思える・・・そういう意味で、としを取ったという(笑)?

高木・(笑)そう。もう、そういうことはないからこそ書きたいと思うっていう。

−−ノスタルジックな感情ですかね?

高木・ああ、ノスタルジーは少しあると思うけど、その美しさをちゃんと残したいと思ったんです。今の高校生を見てて、「今が美しいんだよ」と言ってあげたい(笑)。

−−でもね、その子達に言っても、「何それ?」って感じなんだなぁ(笑)。

高木・そう、私も気づいてなかった。今思えばこそ・・・なんですよね。映画の『ラ・マン』を見ると、手を握るシーンが一番エロティックなんですよ。でも、その美しさに若い頃には気づかない・・・「あ、私もそうだったな」って。その気持ちを残したいという欲望ですね。何かね、女でしか感じられないものを残して行きたいってことでもありますね。

−−『初恋』はね、ループのリズムにアコギが重なり、それにフレットレスベースが絡むという、ゐさおちゃんらしいアレンジです。

吉田・(笑)いいアレンジですよ、僕はかなり気に入ってます。普段はね、歌にぶつかるようなアレンジで音を詰め込むんですが、これは、それより歌の存在感を引き立たせたかったんですよ。歌はふつうに存在してて、後は周りを落とすというか・・・他をこもらせて歌を出すというのが、今までと違いますね。

−−そう、いつもはリズムをやたらと強調したがるんだけど、主役は歌ですね?

吉田・これは歌詞が先にあったんです。何かね、(主人公が)何かを思いだしているようなアレンジにしようと思って。

−−音が邪魔にならないように?

吉田・そう、何回も聴いたカセットみたいな感じかな? ・・・何かが欠けているというか。思い出がしっかりあって・・・それが白黒で、あまり色がついてないっていう。でもね、雲が晴れて・・・少し色とか匂いまで思い出してきそうな感じって言うか。

−−歌詞がないと出てこなかったアレンジだ。

吉田・うん、そうかもしれないですね。

−−しかしね、「その手が探るボタン どうなっても構わないと スカートを濡らした」という官能的な表現って言うのは(笑)・・・。

高木・(含み笑い)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

−−いつか、官能小説を書くんじゃないの?

高木・あ、面白いかも(笑)・・・・・・書くんだったら、極めたい(笑)。

吉田・いや、俺はね、この曲にはそんな露骨さは感じない(笑)。俺はシェイクスピアを感じる−−翻訳したものしか読んだことないけど、原語では本当はもっと包み隠した、エロティックさがあると思うんだな(笑)。

高木・(笑)何それ? 『初恋』のその部分はね、本当は・・・・・・・・・言わない(笑)。


−−(笑)はいはい。で、そんな『翔べ! イカロス』『初恋』、そして以前リリースしていたシングル『白い恋人』も収められたニューアルバム『あすなろ』も、現時点でほぼ完成したということで、次はその話を伺いますが、『翔べ! イカロス』『初恋』を製作した後、アルバム全体というのは明確に見えてはいたんですか?

吉田・うん、最初に話し合いが充分あったし、メロディだけで十何曲既にあったんで、「こんな感じかな?」っていうのは見えていましたよ。でも、バリエーションということを考えると役者が足りないって感じだったんでね、お正月明けに時間をもらって曲を作って。

−−バリエーションって?

吉田・まあ、自分の中でのバランスでしかないんですけど、ちょっと・・・ひとつの方向に寄りがちだなって。で、追加を作ったというね。

−−僕はね、今回の『あすなろ』というアルバムは、『夢見る頃は過ぎても』と『希望』という名曲2曲を産み落としたというだけでも、素晴らしい傑作になったと確信しています。で、この2曲は、『翔べ! イカロス』の後に作った曲なんですよね?

高木・そう、両方とも後ですね。『希望』はね、お正月明けの(曲作りの)中から選ばせてもらった曲だし、『夢見る頃は過ぎても』も途中追加の曲だったんですよ。

吉田・そうそう、(今回は)珍しく何回も曲作りを繰り返していましたからね。

高木・何か・・・気分というか、こういう感じの曲が欲しかったんですよ(笑)。

−−僕が最初に受けとっとテープには、(アルバムでは7曲目に入っている)『タコブーチョっ!!!(いい女第2巻)』が1曲目に入っていてさ・・・(あまりにもコミカルで)ひっくり返ったんですよ−−「こんなのが5〜6曲も入っていたらどうしよう」って(笑)。

吉田・(笑)あっはははは・・・実はね、(レコード会社の)会議で披露したテープの1曲目もそれだったらしくて(笑)−−皆んな、「『翔べ! イカロス』は名曲でした。さあ、次のアルバムの音はこれです!」って出たのがね、『タコブーチョっ!!!(いい女第2巻)』だったという(笑)・・・皆んなひっくり返ったって。

−−(笑)それはともかく、『夢見ることは過ぎても』と『希望』はね、何でこんなに鍵盤をベースとした感動モードのアレンジになったんですか?

吉田・それが功を奏しているかどうか分からないんですが、いままではいろいろ(勉強を)積み重ねてきたという弊害で・・・随所に不用意な理論が出て来ちゃうんですよ(笑)。ジャズの勉強をしたら、ついついそれが(技術的に)出ちゃうみたいなね。メロディとリズムをつけ、その曲の雰囲気に合わせたギターやピアノをバーンって置いていくやり方をしていたんだけど、今回は間があるような感じというか・・・高木の声でメロディを唄ってもらってね、どのコードが合うのかを何十時間もかけて模索して朝を迎えるっていう(笑)。

−−彼女の声が気持ちいいと感じるところまでひたすらやり続けるっていう?

吉田・楽曲の流れを考え、そこからようやくリズムをはめるみたいな感じですよ。なにか今回は何故か、そんな作業が増えましたね。


−−『夢見る頃は過ぎても』のポイントはね、一番最後のサビなんだけど、それ以前の部分とは完全に分離させているでしょう? 一気に転調して最後のサビで感動モードに突っ走って行くというか。で、この展開というのはね、歌詞を見ないと出来ないでしょう?

吉田・僕はまず、A(メロ)B(メロ)C(サビ)だけを作るんですよ。で、後で歌詞を詰めている時、A→B→C→B→Cなのか、A→B→C→Cなのかっていうのを決めるんだけど、『夢見る頃は過ぎても』は、高木の方から、「最後に、もう一回C(サビ)を唄いたいんだけど」って話があって。じゃあ、そこに行くまで長い感想部分を入れようかって。

高木・うん。「2ばんのサビが終わり、ちょっと間奏があって、転調とかしたらクサいかなあ(笑)? 最後に「夢見る頃は過ぎても」をどうしても2回繰り返したいんだ」って話をしたら、「はいよ」ってゐさおちゃんは音を作ってくれたっていう。

−−じゃあ、『夢見る頃は過ぎても』を感動モードにしたのは郁乃ちゃんでしたか?

高木・いつもは、お互い別々に作業をしてて、「あ、こういうアレンジなら、こういう歌詞かな」とか、そんな風にして歌詞を書いていたんだけど、今回は・・・半分くらいは・・・『チロ』もそうだし、『夢見る頃は過ぎても』あたりの(テンポの)遅い曲は詞が先行してるですよ。で、そういうやり方だと、メロウで(テンポが)遅い感じになって・・・その度にディレクターから、「遅い!」と言われてね。

吉田・遅いの得意なんだ、俺(笑)。

高木・(笑)そんな雰囲気がどうしても多くなるから、「じゃあ、(アルバムの)あとの半分は、アレンジ先行でやろうか」って。

−−効果的だった『夢見る頃は過ぎても』の、「サビを最後に繰り返したい、転調したい」というのは曲構成的にはどうだったの?

吉田・僕はね、転調を不用意にしてはいけないと思う人なんですよ。『おなじ星』みたいな王道のポップスでは、本当であれば最後のサビ部分は転調しなきゃいけない。だけど、転調って言うのは意味がないと、してもしょうがないんですよ。だけど、プロセスを経ない汚い転調が、最近巷では凄く多いと思うんですよね(笑)。

−−(笑)あ、業界批判なの?

吉田・そう、批判です(笑)。必然性がないのに、いきなり半音上がったりするって言うのがよくわかんなくて。実際にね「『おなじ星』みたいな曲は、最後に転調した方がいいんじゃないですか?」って、やかましいメールもいっぱい来たんですが(笑)、『おなじ星』の最後の(サビ)部分は歌詞も一緒で・・・あれはもう気持ちだけで転調するというか、それに近い作用をするアレンジをやったつもりでいて・・・実は、転調よりは難しいことをやったつもりだったんですよ。だけど、『夢見る頃は過ぎても』で今回転調したのは、サビの繰り返しではあるんだけど、途中で間奏は入るし、全然違う歌詞が入るわけで、それならば転調しようってことだったんですね。

−−そう、実は最後のサビ部分って言うのが、歌詞もアレンジも最重要部分だったんです。歌詞とメロディ、そしてアレンジがこれほど三位一体となっているのは・・・JS史上、非常に珍しいケースだと思うんですが?

高木・ゐさおちゃんが作った曲を、途中でマネージャーやディレクターが聴いて、紙にその第一印象を書くんですよ、まあ、○とか×とか△とかね。で、最初、『夢見る頃は過ぎても』は・・・“?”だったんですよ(笑)。私は最初聴いたときに、「いい曲じゃん! 地味だけど(笑)」って・・・だから、その評価に対して、「あれ?」と思ったけど、「あれは、いい曲だよね」って自分を信じようと(笑)。

吉田・(笑)皆んなわかってないんだよ。

高木・最初は無反応だったけど、皆んな詞がついてやっとわかったっていう。

−−何かね、JSは、かなり凄いところに辿り着いたって感じがしたけれども。

吉田・いや、それはわかんない(笑)。何かね、一個一個の曲を・・・簡単に答を出さなくなっているんで時間がかかって・・・ちょっと疲れているというか、バテ気味っていうか。で、僕は曲を作る時は大体、16歳の夏に自分を連れてって作ること(『夏色シネマ』というコンセプト・アルバムに収めた『夏の情景』は、彼が16歳の夏に作った曲。この制作体験が彼には大きかったと思える)が多いんだけど、この『夢見る頃は過ぎても』はね、(このインタビューの冒頭でも話していた)高木が体調を崩してJS存続に対して消極的な発言をした頃に・・・「あ、この(JSという)プロジェクトは終わるかもな」と思いつつ・・・・・・家に帰ってからギターで作った曲なんですよ。

−−『夢見る頃は過ぎても』は、喪失感バリバリの時に書いた曲だったんだ?

吉田・・・・うん、だから、(最初は)そんなの出さないでおこうと思ったんだけどね。

高木・でも私にはね、「これは男の人生の歌でさ、浮草なんだよ・・・」とか言ってて。「浮草ってなあに?」って聞いたら、「お父さんがね、(疲れて)仕事に行かず、川べりで寝てる歌だ」とか言ってて(笑)。

吉田・(笑)違うよ、そんなこと言ってないよ。

−−(笑)喪失感という意味では合ってるなあ。

高木・そう、合ってるじゃん(笑)。

吉田・いや、浮草っていうのは合っているかもしれないけど、「仕事を休んで・・・」とかって言ったのかな? ・・・覚えてない(笑)

−−ゐさおちゃんは、この曲を書いているときはね、心にポッカリと穴があいた何かを埋める感じだったんでしょ?

吉田・そう・・・僕は普段、「何時から何時まで曲を書くぞ!」っていう風に決めないと曲を書かないことにしてるのに、自分が何かに感動したりとか、気持ちがグワッって動いたときに、何故か出て来るのが音楽(曲)なんですね。前にも話したけど、(『虹のカプセル』の最後に収録されている)『雲の中の散歩』なんかも、大学の卒業式のあとのパーティーでナンパに失敗して(笑)、(失意のまま)友達と家に帰って飲んで、次の日の朝に友達を見送った、その背中を見てかけた曲だったし(笑)。

−−感動というよりもね、『雲の中の散歩』や『夢見る頃は過ぎても』は失意の中で書けたということじゃない(笑)? だから、いい曲を書くには悲しい出来事を抱えた方がいいと言うことなんじゃないの?

吉田・(笑)そうなんですかね? じゃあもっと、波瀾万丈な人生を過ごせっていう(笑)?

−−(笑)当たり前じゃないですか?

高木・ね、落ちるところまで落ちてみなよ(笑)。

−−(笑)わっはっははは。でね、この『夢見る頃は過ぎても』の歌詞は、歌詞に耳を傾ければ誰でも凄く分かるようになっていて、バカばかりやっていた若い頃をまぶしく感じつつ今の自分を嘆いている歌ですよね? 「途切れぬ悲しみ 消えゆく夢たち〜あの頃が突然 まぶしく思えた もう 燃えるような恋なんてしないのかな」って・・・ものすごい喪失感と諦めなんだけど、それでも、「私たちの日々は続く・・・」って歳を重ねた今の自分を奮い立たせようとしているじゃない?

高木・今回のアルバムの気分って、『夢見る頃は過ぎても』だと思っているんです。でね、ちょっと前まで、ウチのアパートが工事をしていて、しばらく目黒駅前のホテルから事務所に通っていたんですけど・・・何だかわからないけど、通いながらいつもそんな気分だったんですよ。ホテルにいても気分が重くて・・・何かこう、「これはアルバムの中で、きっと大きな部分を占めるんだろうな」と思ってて。

−−これはね、ある年齢に達した時に感じる諦めと、(目黒駅前近辺の為、通勤のOLやサラリーマンが多いという)周りの環境に影響された為じゃないですか?

高木・・・・何かね、(いろいろ)知ってしまったこともあるし・・・・・・諦めなのかな? ほら、結婚前にマリッジブルーになるとか言いますよね? そんな感じですね(笑)。

−−(笑)それ、全然違うじゃん。まあ、今は確実に重ねた年齢より精神年齢は幼いとは思うけど、肉体的には大人だけども、まだまだ若いって言うかね。だけども、仕事なんかを始めると、確実におべんちゃらや、愛想笑いは増えるわけでね。で、確実に大人になってしまえばいいんだけど、大人と子供の狭間で揺れてたりする時期だったりすると、「私はこのまま汚れていくのかな」と思ってしまうってことですよね?

高木・ああ、そうですね・・・(そういう風に)客観的に自分を見るって言うのが凄く多くて。で、その汚さに対して、今までは、「私は絶対そうはなりたくない」って拒否してた。だけど(以前よりは)優しい目で見れるようになってきていて・・・もっと大人の部分=責任も背負わなきゃいけないんじゃないかと思って。逆に、これを書いた後とかって、大人達が汚い話とかをしていても・・・・・・最近よく使う言葉なんだけど、「しょうがないな」って−−しょうがなさ=切なさがあるんですよ(笑)。

−−その、「しょうがない・・・」というのを飲み込む毎日を過ごすけれど、でも、人生を全部そう思えているわけじゃないっていう、そんな気分の歌じゃないですか?

高木・(笑)うん、そうですね。いろんな生き方をしている人がいて・・・札幌に行ってタクシーに乗ると、ものすごく無愛想で・・・仕事自体私は立派だと思うけど、そういう態度の悪い運転手さんを見ると、「俺はこんなことをやってる器じゃない。仕方なしに嫌々やってるんだよ」っていうのが見え見えで。でもね、大会社の社長さんだったのに、ある日会社が倒産してタクシーの運転手になったという人もいて、だけど、ものすごく楽しそうに仕事を全うしてる人でね。「会社が倒産・・・」とかって言うと、私よりも年齢の低い子なら「情けないな」と思うのかもしれないけど、今の私から見たら、(その人の人生そのものが)とてもきれいに見えるようになった・・・そういう気分も(歌詞が書けた要因として)あると思う。

−−最後に、「汚い大人に見えているだろうか・・・だけど 希望 失くしたわけじゃないよ」というフレーズがあるでしょ? ゐさおちゃんはこの部分を率直にどう思った?

吉田・まず、詞の内容は置いといて、さっき言ったように最後できれいに転調するわけじゃないですか。で、その後に出て来るのがね、「汚い大人に・・・」って言葉でね・・・これは凄くショックなんですよ。だけど、出来上がって聴いてみると、それすら意味があると思いますね。最初に転調して、そこのオチである言葉(歌詞)が乗っかった時に実はまだ何か必要だなと思った・・・もうちょっと綺麗にして終えてあげようかって。でも、今、高木が言ったような気分が感じられたとしたならば、充分バランスはとれるかなと思った。

−−うん、しかしね、喉の調子を崩したと言えど、この『夢見る頃は過ぎても』−−曲は勿論・・・ヴォーカルテイクに俺は泣いた(笑)。

高木・(笑)声は・・・以前は疲れすぎていたんですよ。『林檎のためいき』の時は、キャンペーンをしながらの録音だったし、それに加えてアルバム制作前に扁桃腺を取ってたから喉そのものも慣れてなかった。で、それから喉や体調を一気に崩しちゃったわけだけど・・・今だって万全じゃないけど、最近は力が少し抜けていて・・・歌い方は変わった気がしますね。



−−で、僕が受け取ったテープには、(アルバムでは9曲目)『夢見る頃は過ぎても』の次に、『希望』が入っていて。「おお! 今度のJSはかなり凄いぞ!」と思わせるに充分な楽曲で。だから、僕はこの2曲だけでも充分だというわけですけど。特にこの『希望』はJS史上もっとも素晴らしい代表作でしょう?

高木・じゃあ、リカットはこれかな(笑)?

−−(笑)シングルはどうかわからないけれど、アコギのカッティングとうねるフレットレスベース、そして鍵盤というシンプルなアレンジ。で、感想とアウトロには駆け上がるようなシンセが入る・・・本当にいい曲ですよ。

高木・ああ、あのシンセは凄くいいよね(笑)。

吉田・(笑)あれね、シンセがいいという人と楽曲を壊しているという人の二通りに別れると思う。僕はね、インターリュード(間奏)でのソロの必要性があるかないかを凄く考えるんですよ。例えば4人組のバンドがあったとして、「ウチにはギタリストがいるから、ギターソロは入れなきゃね」っていう、メンバーのギター・ソロを弾きたいという欲求を充足させるためのソロは絶対おかしいなと。僕らには、そういうメンバーがいないし、だからこそ(楽曲にソロが)必要かどうかを真剣に考えるんです。で、こんな風にシンセのソロを入れるときはね、詞を読んで、その必要性を理解した一音一音、ひと晩かけて考えつつソロを作ったという方が正しいですね。

−−この歌詞はね、かなり『翔べ! イカロス』に通じる部分があると思うんですが、ゐさおちゃんは、「『〜イカロス』は行進曲をイメージして」と言ったけど、この『希望』のアレンジ・イメージは何ですか?

吉田・このアレンジは・・・“我思うゆえに我あり”だったかな(笑)−−実は、僕が書いた最初の詞は、そんなテーマだったから。それはどういう詞かというと、いろいろ知って(得て)大人になっていた気でいたけど、実はいろんなものを捨てて大人になっていると。で、小さな頃に見えたり聞こえたものが、今は聞こえないし見えない−−「お前、本当のことが見えているのか聞こえているのか?」と自分に問うている歌詞で。そう思っている自分がいるのは確かだし、何かを捨てて別な人間になっているのかもしれない・・・そんな風に思う自分がいるというのも確かだと。だから、最初は“我思うゆえに我あり”でした。

−−自分に内向している精神葛藤じゃない? そこまでの混沌としたアレンジを、僕には感じ取ることは出来ないけれども?

吉田・いや、俺にとっては凄く恐ろしいアレンジですよ。大嫌いなホルンを入れた時点で、ものすごく怖いと感じるアレンジになってます。

−−何でそんな嫌いな音を入れたの?

吉田・(笑)何かね、怖いものを入れたかった。

−−緊張感を出したかったっていう?

吉田・あ、それに近いかもしれない。

−−そうかなあ(笑)・・・郁乃ちゃんは?

高木・私は全然(笑)。ゐさおちゃんはカーペンターズが怖いと思っている人だから、相手にしなくていいですよ(笑)。私はね、『希望』を最初に聴いたとき、「あ、トム・ソーヤだ」と思った。海原をイカダで進んでいる感じがしたんですよ。で、読んだことがなかったから、夜中に青山ブックセンターに行ってトム・ソーヤを買って・・・4ページ目まで読んで、つまんなくて読むのをやめて(笑)。

−−あははは。で、トム・ソーヤって?

高木・何かね、綺麗な青空のもと、まだ何も知らないちっちゃな子が海原に出かけて行く。で、(俯瞰で)見ている私がいて、「そのうち雨が降って大変だよ」とか、「(日差しで)皮膚が焼けて痛いよ」とか、教えてあげる歌にしようかなって・・・ずっと悩んでた。

−−で、結果的に『希望』は、本当に『翔べ! イカロス』と対になる歌詞になったと思います。「果てのない荒野をひとり 旅人は歩いてく〜僕らの未来に待つのは 深い闇、失望、孤独 誓った愛でさえ 死がふたり 分かつだろう・・・」という部分には、人間に必ず死という、ある種絶望的な結末が必ず訪れるけれども、そうであろうと必死に歩いて行くべきだという覚悟が描かれてると思うんです。

高木・最初はこの曲、「トム・ソーヤだ」なんて言ってたんだけど、去年見た映画、『ライフ・イズ・ビューティフル』を思い出してね−−「あ、あれだ!」って。何かね、それまでの私の気分って・・・「辛い! 辛い! 辛い!」の連続だったけど、「そんなに人生は捨てたもんじゃないかも。何があっても笑っていこう」って気分になれて。で、そんな話をスタッフに言ったら、「いきなり元気にはい上がったところを見せても、よく分からない人もいるかもね」って言われて(笑)・・・そんな話をしている内に、旅人の絵が浮かんできて・・・アレンジもそんな感じだし、「ああ、脈々と度をしている感じにしよう」って。そんな頃に、『翔べ! イカロス』を聴いた皆んな(スタッフやライター)が、「あそこに辿り着いた・・・その過程を知りたい」って聞きたがるんですよ。それならば、「『翔べ! イカロス』に辿り着くまでのことを歌詞にしよう」って。だって、自分のことをリアルに出さなければ、やっぱりサビなんかは響かないんじゃないかって思ったしね。

−−「旅人は大地(つち)にかえるよ 最後はただ一粒の涙がこぼれるだけ・・・」ってフレーズがあるけど、旅人は死んでしまう・・・ほとんどが絶望的な歌詞だよね?

高木・そう、「でも僕は、 それでも僕は 君が好きだよ 君が好きだよ 僕は歌うよ」に行かなければ、ホント絶望的な歌詞なんです。(笑)−−だから、最初から『希望』というタイトルがついてたわけじゃない。だけど・・・とにかく、この絶望的な歌詞に希望を見つけて欲しいと思って書いたんですよ。ある映画監督のコメントでね、「彼らの進む未来は、決して明るい未来ではなく、失意と、絶望が待っている。でも、それでも進む、彼らの姿に希望を見るのだ」ってあって。ホント、その通りだと思って(笑)・・・私のこの歌詞の中で、ひとかけらの希望を見て欲しいなと思ったんです。『希望』の最後のフレーズに行くまでは、全部絶望と負け。でも、最後まで辿り着けば・・・「旅人が勝ったことになる」−−そう思って作った曲でした。

−−そう、JS史上最高の曲だと思えるのは、まさにそこで。ホント、世の中って・・・ついつい、「結果がすべて」って俺も言うし、その通りだと思う。だけども、負けるわけじゃない? そんな時に、「君が好きだよ」と言ってくれる、過程を応援してくれると言う歌はね、本当に素晴らしいと思うんだよ(笑)。

高木・(笑)ああ・・・よかった。だけど、私なんか何も言える資格なんてなくて・・・自分がダメになっている時って、誰に何を言われても響いてこないんだけど・・・『翔べ! イカロス』の詞が書けるところまで行った時、頭の中では旅人が歩いている感じがして・・・そんな気持ち=過程だけは伝えたいかなって。


−−で、『翔べ! イカロス』『夢見る頃は過ぎても』『希望』が出来たことから、アルバム・タイトルの『あすなろ』が生まれたんじゃないですか?

高木・『あすなろ』の空気感って『夢見る頃は過ぎても』なんですよ。で、アルバム・タイトルを凄く悩んでいて・・・涙腺とか青春だとか・・・キーワードはいろいろありつつ、凄く悩んでた。ある日、ゐさおちゃんと中華料理を食べていて(笑)・・・何げなく、「プロモーションビデオの監督って、まだ映画監督になれないから、プロモーションビデオを作っているのかな?」って話になって。そしたらゐさおちゃんが、「というかね、あすなろだよね!」と言って・・・私の箸が止まったんですよ(笑)−−「あすなろ!? 決定!」っていう感じだったんですよ。

−−「いつかは芽が出るだろう。そのために今頑張る」という例えだよね?

高木・私はそういうイメージじゃなかったんですよ。ゐさおちゃんは、(若さの象徴の)チェリーボーイだと言ってたけど(笑)。だからね、『希望』で言えば、「遠に夢すら 敗れてても 汗をぬぐって 歩いているよ」っていうのが私の中の“あすなろ”なんですよ。

−−あ、既に負けているイメージ?

高木・だって、あすなろの木は絶対檜(ひのき)にはなれないわけじゃない?

吉田・いろんな取り方ができるんじゃない?

−−そうそう、僕の大好きな全日本プロレスの若手登竜門となるトーナメントを“あすなろ杯”と言うし(笑)−−檜(ひのき)には絶対なれないかもしれないけど、ひとつひとつ前に進んでいくという姿勢であって。で、その先は誰にも分からないってことですよ。

高木・(笑)あ、そうなのかあ・・・だけど、「土壇場でタイトル出たね」って言われてね(笑)。

−−(笑)はい、JSらしいタイトルです。でも、『夢見る頃は過ぎても』『翔べ! イカロス』『希望』と『タコブーチョっ!!!(いい女第2巻)』が同居してるアルバムっていうのが、何ともはやっていう。まあ、確かにフラメンコのエッセンスは面白いし、歌詞もコミカルでいいと思うんだけど(笑)。

高木・(笑)朝、30分で書いた歌詞。

吉田・(笑)最高! こういうのが欲しかった。これ、高木にしか書けないよ。

高木・いつも誉めないのに(笑)。

吉田・これ、他の奴らが書いたら全部オチャラケになっちゃうから。僕ね、JSで一番マニアックなのは歌詞だと思っていて。それが、売れない一番の理由(笑)。

高木・(怒)違うよ! アレンジじゃないの?

吉田・いや、考えるのをやめた若者にとっては歌詞は難しいんだよ。で、こういうバカポップの方が受けるし・・・更に、これは深い歌詞でしょう? これ、最高(笑)!

−−(笑)はいはい。じゃあ、切れると思ったら勝手にシングルで切りなさい。で、こうしていろいろありつつ、3作目となる『あすなろ』が完成しました。で、ふたりの今の心境を最後に聞かせて下さい。

吉田・自分の中では、新しい分野へ歩みだした一枚目って感じかな。

高木・私はちょっと違って、1枚目と2枚目を超えて・・・それでようやく3枚目で何かが伝えられるんじゃないかって思うな。2枚目がなかったら、(このアルバムは)違う形になったと思う・・・・・・2枚目を出した意味も3枚目に反映されているっていう。だから、3枚のアルバムでワンクールって感じかな−−「JSの核が出来ました。私たちはこうですから、よろしく」っていう(笑)。だから次は、もっと旅をして切り口を増やしたい・・・今までは自分の世界を突き詰めただけだけど、今度は他の人や何かに触れたいなと思っています。

−−とりあえず、第一期完結なの?

高木・うーん・・・・・・どうだろう? ・・・それは次になっちゃうかも(笑)。


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